日本人に合うマウスピース

近年、日本人金管楽器奏者の演奏能力は格段に向上しました。しかし、西洋人プレイヤーの演奏表現と比べると物足りなさを感じてしまうケースも多々あります。その残念な差が生じてしまう大きな要因として、人種の違いによる解剖学的差異があります。

西洋人

図に示すように、西洋人の歯は一般的に前方に突き出ることはなく、上下の歯が直線上に並ぶか、後方(口腔内方向)に凹となります。したがって、マウスピースを唇にセットした場合、リムカンターもしくはリム外側縁が主な接触面となるため、プレス力が増してもリム内の唇はフリーに振動します。

日本人

対照的に、日本人の歯は、大きく、さらに前方に凸であるため、リム内側縁が面でなく線接触となってしまうことから、プレスすればするほど唇がマウスピース内にめり込み、唇への血行が阻害されてしまいます。この残念な現象は、マウスピース径の小さいホルンやトランペットにおいて顕著です。


 日本人にみられるこれらの欠点を克服する対策として、内径の大きなリムおよびバイト角が明瞭でしっかりと感じとれるリムを選択することが大きなポイントとなります。内径が大きくなることにより、めり込む唇の量も減り、上下に歯間を開けて吹く際も歯先端部が当たって不安定になるのを回避できます。

 内径が小さく不適切な場合、次のようなデメリットが生じます。

  • 唇の上下ともに赤い部分にリム外縁がのってしまう。少なくても上下どちらかできれば両方の唇の白い皮膚部分にリム外縁が接するのが理想だが、おちょぼ口で唇が前方に厚いタイプが多い日本人において小さい内径でこの要望を満たすのは困難。
  • その結果、high C くらいまではきれいな mf は出るものの、全音域にわたってマーラー、リヒャルト・シュトラウス、ブルックナーなどで要求されるコントロールされた ff を出すことが困難。
  • 音域が制限されるため、高音域の pp の演奏に恐怖を感じる。亡き王女のためのパヴァーヌなど。
  • 唇の赤い部分でも特に内側の柔らかい部分にリムが食い込みやすいため、音質が暗く遠鳴りしない。
  • マウスピースを唇に当てる位置が少しでもずれると演奏能力が低下するため、アンブシュアセッティング時にその当てる感覚に非常に神経質になり、音を出す前から過度に緊張するうえアンブシュアセッティングに時間がかかる。
  • 唇の赤い部分が荒れやすくなる。
  • ウォーミングアップに長時間を要す。

 これらの致命的なデメリットを改善する方策として、内径 19mm 位から始めて"徐々に"小さくしていって適切なサイズを見つける方法があります。この方法は、小さいものから大きくしていく試みに比し、可能/不可能 のカットオフ値を明確に見出すことが容易です。

 

 バイトが明確なリムは、唇でバイト縁をしっかり感じとることができるため、より正確なアパチュア形成につながります。結果的に、プレス軽減に役立ち唇のめり込みや阻血を回避できます。

 このことを実証するエクササイズとして、バイト角が明確なリムとバイト角が落ちて丸いタイプの二つのマウスピースを用意し、それぞれ少しずつ唇に接触させると、明確なバイトの方が少ないプレスで自然に音が立ち上がり、さらにそのままのプレスで長時間のロングトーンが可能です。この場合、リム幅、リム内径、カップ形状、スロート径はできるだけ同じ条件にします。

 さらに、弊社レンタル商品でもある プレス力 練習器具(Methodische Zusatzgerä)を用いることにより、より明確に比較できます。本器具の設定プレス力を最弱にしたうえでマウスピースを装着し、上述したエクササイズを半音ずつ上昇させて行います。フィットしないマウスピースでは、無理に音を出そうとするため、すぐに器具から息が漏れて音が出なくなりますが、フィットするマウスピースではより高い音までロングトーンが可能になります。

 

 注意すべきは、海外製のマウスピースは各々生産国の人種プレイヤーを基準に設計・製造されているということです。したがって、カタログに記されている説明文をそのまま鵜呑みすることはリスクが伴います。例えば、アメリカ バック社のカタログには №7が「大きめのサイズ」と説明されていますが、このモデルのリム内径は 17.25mm でありむしろ日本人にとっては比較的小さいサイズです。

 

 リム内径は 17.5mm が平均的との見解もありますが、そのサイズで成功する保証はどこにもありません。我が国のプロホルン奏者においても 16~20 mm 台まで使用するサイズは様々です。後々後悔しないように、19.00mm 位までは試す価値ありと考えて積極的に試奏することをおすすめします。試さない人生には後悔が付きまといます。